水晶とは?
「水の精」から「産業の塩」
水晶は、昔から「水の精」といわれその透明性・硬さなどから尊重され、その神秘性から魔法の玉などとして用いられてきました。現在でも研磨して、婦人のネックレスや指輪として貴重視されています。このような水晶が形を変え我々の身の回りに水晶製品として、多く使われています。そして貴重な天然水晶に代え、人工水晶より作られた水晶デバイスとして世に送り出されて、産業の米と言われる半導体と共になくてはならない存在となり、「産業の塩」と呼ばれています。
クォーツ時計
最も身近で利用されているのが、クォーツ時計です。昔、機械式時計でしたが、クォーツ時計は300倍以上の高精度を得ています。これは水晶振動子とICの発明の賜物であり、水晶振動子の代表的な周波数として32.768kHzがあります。この32768HzをICにより1/2に分周し続けると、時計の基準の1秒1パルス(1Hz)ができてきます。その1パルスが秒針を1秒進めます。
水晶の圧電現象と役割
1880年にフランスの物理学者キューリー兄弟が発見したのが圧電現象です。
(1) 水晶の結晶に機械的に圧力をかけると、表面に電気が発生します。(圧電現象)
(2) 逆に、電気(電圧)をかけると機械的に歪を発生します。(逆圧電現象)
身近な圧電現象の例として、ライター・ガスコンロなどに使用されている着火式です。ボタンを押す、または回転させカチッとさせることで圧電セラミックに機械的圧力を加えることになり、その結果電気(火花)が発生して、着火させることができます。このような現象を水晶振動子は利用しています。
圧電現象が確認できる材料は、水晶のほかにセラミックなどがありますが、水晶はそれらの材料と比べて、手軽で最も精度が高く安定した周波数が得られるため、あらゆる機器の必要不可欠な電子部品として、利用されるようになりました。水晶は正確な機械振動を電気の信号に変え、各種ICの同期基準信号、映像用色基準信号、時計用などに使われています。高性能コンピュータも水晶デバイスがないと「ただの箱」と化し、現代社会ではなくてはならない基幹部品となっています。このような水晶デバイスには水晶振動子、水晶発振器、水晶フィルタ、SAWデバイス、光デバイスなどがあります。
水晶振動子 -Quartz crystal unit-
水晶は結晶学的には三方晶系、点群32に属します。(3回の回映軸と2回の対称軸を持つ)物理的な性質としては、密度2.654g/cm3 モース硬度7、α-β相転移温度は573℃で、この温度でα-石英から圧電性のない六方晶のβ-石英となります。水晶振動子は、ATカットや、GTカットのように室温付近から広い温度範囲に亘って零温度係数を有するため周波数温度特性に優れています。また物理的、化学的に非常に安定している物質であるためエージング特性にも優れ、その周波数変化は極めて小さな値となります。これらの優れた周波数安定性で、携帯電話や無線機等の通信機器やテレビ、ビデオ、デジタルカメラ、パソコン等の民生機器に大量の情報を同時に素早く処理するための正確な基準信号として使用されています。また、腕時計やストップウォッチのように時間や時刻の基準としても広く利用されています。
水晶片の切断方位、周波数、振動モード
水晶振動子は、その結晶性と圧電性から色々な振動モードが存在し、その幾つかは零温度係数を有します。周波数は、厚みすべり振動子(ATカット、BTカット)のように厚みがパラメータになる振動子、音叉型水晶振動子のように音叉の腕の長さと幅がパラメータになる振動子、輪郭すべり(CTカット、DTカット)のように正方形の一辺の長さがパラメータになる振動子等、振動モードによって周波数を決定するパラメータが異なります。これらの加工は機械的に加工する方法と化学的に加工する方法の2種類に大別されます。
振動モードはそれぞれ周波数範囲や、電気的性能が異なりますので使用されるモジュールによって使い分けることが必要です。
水晶発振器 -Crystal oscillator-
水晶発振器はその機能により幾つかの種類に分類されます。 (注: 文中の「X’tal」はCristalの略記です)
SPXO (Simple Packaged X'tal Oscillator)
SPXOは単にXOと呼ばれる事もあります。水晶振動子はフィルタやセンサとしての用途もありますが、回路中では発振素子として多く機能します。SPXOは水晶振動子と発振回路を一体化した最もシンプルな発振器です。水晶振動子には温度特性がありますが、同様に発振回路にも僅かな温度特性があります。また、水晶振動子を特定の発振回路と一体化する事により、発振周波数を左右する負荷容量も決まった値となりますので、SPXOを使用することにより、これらの要素の総合特性を把握することができます。特に高い周波数ではアナログ設計の煩わしさなく、水晶発振を利用することができます。
TCXO (Temperature Compensated X'tal Oscillator)
TCXOは温度補償型水晶発振器で、水晶振動子の持つ温度特性と正反対の回路特性を組み合わせる事により、水晶振動子単体よりも遥かに高い安定度の信号を出力します。近年では回路がIC化されることにより、大きさも水晶振動子と殆ど変わらないほど小さくなっています。TCXOは身近なところでは、携帯電話の多くに使われています。
VCXO (Voltage Controlled X'tal Oscillator)
VCXOは発振器の出力周波数を外部から加える電圧でコントロールできるものです。PLL回路によく使われ、通信の中継装置や様々な産業機器の中で使われます。
OCXO (Oven Controlled X'tal Oscillator)
OCXOは水晶発振器で最も高精度な品種であるため、高安定発振器と呼ばれることもあります。水晶振動子の温度特性が一直線でなく、温度に対して弧を描くことを利用して高温域で温度傾斜がゼロになる水晶振動子を用い、ヒーターで水晶振動子をその温度に一定に保つものです。他の水晶発振器に比べて消費電流が大きくなるため、携帯電話の基地局や放送機器、測定器などに使われています。
水晶フィルタ -Crystal filter-
水晶フィルタは、温度変化に対して周波数が安定で急峻な共振特性の水晶振動子を利用したフィルタで、公称周波数が数kHz〜数百MHzで通過帯域幅が数十Hz〜数百kHzの帯域通過フィルタが、無線通信機器や有線伝送装置などに使用されています。水晶フィルタは、次のディスクリート型水晶フィルタとモノリシック水晶フィルタに大別されます。
ディスクリート型水晶フィルタ
一般水晶フィルタとも呼ばれ、一つ以上の水晶振動子とコイルやコンデンサを組み合わせてケースに収めたもので、回路構成は主にヤーマン回路が用いられます。
モノリシック水晶フィルタ(MCF)
1枚の水晶板上に2対以上の電極を配置して電極間の音響的結合による複数の共振特性を利用したフィルタで、ディスクリート型に比べて設計及び製造上の制約が大きいため、実現可能な特性(公称周波数・通過帯域幅など)の範囲は狭いが、一枚の水晶板が複数の水晶振動子として働き、又コイルが必要なヤーマン回路を用いないため、小型・軽量などの特長をもっています。
SAWデバイス -Surface acoustic device-
日本語では弾性表面波素子と呼ばれています。弾性表面波とは弾性体(固体)の表面を伝わる波のことです。
SAWの特徴
(1) 振動モードのなかでも高周波(60MHz以上)を扱う。
(2) 電極が櫛形電極となっており独特な形状をしている。
SAWの励振方法
SAWは、独特な形状の圧電基板上に配置したIDTに電界をかけて励振します。IDTは(Interdigital Transducer)の略で、日本語では櫛形電極と呼ばれています。IDTの中心周波数を f 、IDTの周期を 2d 、表面波の伝播速度を v とすると
v=2d×f
という関係があります。表面波の伝播速度は基板材料により異なる値をもち、水晶のSTカットの場合は約3100m/secの値を持ちます。
SAWの使用範囲について
SAWデバイスは民生機器のフィルタや共振器として使用されます。
IDTの中心周波数と伝搬速度との関係 | SAWの励振方法 |
光デバイス -Optical Device-
水晶には一本の光線を二本に分けたり光の振動方向を変えたりする働きがあります。これを複屈折性、偏向性、旋光性があると表現します。このような性質を利用した光デバイスとしてはビデオカメラやデジタルカメラに用いられる光学ローパスフィルタ、光ディスクや光磁気ディスク装置に用いられる位相板(波長板)があります。
光学ローパスフィルタ(複屈折板)
CCDまたはCMOSセンサ1個を利用したカラーカメラでは色分解フィルタを使用してカラーを再現するため、ある程度以上の細かさの縞模様を移すと実際には色が着いていないのに出力映像に色が着いてしまいます。このような障害を取り除くために一本の光線を二本にする複屈折板(光学ローパスフィルタ)を使用しある程度以上の細かさの縞模様をぼかします。縞模様が細かい→(空間)周波数が高い。縞模様が粗い→(空間)周波数が低い。
位相板(波長板)
光軸に垂直に入射する光は進行方向が同じで振動方向が90°異なる光(常光線と異常光線:速さが異なる)として水晶板中を進みます。水晶板の厚さを変えることにより二本の光が水晶板から出るときの位相差を変えると偏光の状態を変えられます。(直線偏光、円偏光、楕円偏光)この性質を利用してCD、DVDなどの光ピックアップに1/4波長板や1/2波長板として水晶が利用されています。
1/4波長版の原理図 | 1/2波長版の原理図 |
人工水晶 -Synthetic quartz Crystal-
水熱合成法によって育成されたアルファ水晶の単結晶。右又は左水晶でアズグロウン状態又はランバード加工された状態の人工水晶。
人工水晶の育成方法
オートクレーブと呼ばれる高温高圧容器を用い、水熱合成法により製造されます。その原理は、地殻内部で天然水晶が成長する過程に似た環境を人工的に再現するもので、非常に短期間に、しかも高歩留で水晶結晶を得ることが出来ます。
オートクレーブは対流制御板により上下2室に分けられます。上部は結晶成長域で種子結晶が取り付けられ、下部は溶解域で、原料である天然水晶(ラスカ)がセットされます。その後、オートクレーブ内自由空間の約80%に希アルカリ溶液(水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウム)を注入し、蓋をしてヒーターにより加熱します。オートクレーブ上部温度を約300℃、下部温度を約400℃に加熱すると溶液の膨張圧縮作用により、圧力は140MPa程度まで上昇します。
このような高温高圧環境下において、下部の原料はアルカリ溶液に溶解を始めSiO2の飽和溶液となります。この飽和溶液は熱対流により上昇しオートクレーブの温度差により上部成長域で過飽和状態となり種子結晶上に析出・成長を始めます。
その後、溶液はオートクレーブ下部に下降して加熱され、再び原料を溶解して対流により上昇します。このような過程を繰り返すことで人工水晶が連続的に成長します。