新しい赤外線吸収係数α値とマテリアルQ値の換算式

この度、日本水晶デバイス工業会材料委員会では『人工水晶の赤外線吸収係数α値とマテリアルQ値との関係』において、以下を日本水晶デバイス工業会の推奨する換算式として公開することになりました。

106/Q3585 = -1.010α35852 + 5.252α3585 + 0.189 (波数 3585cm-1を用いた場合)
106/Q3500 = -11.01α35002 + 9.448α3500 + 0.026 (波数 3500cm-1を用いた場合)

経緯

人工水晶のグレードの評価はJIS規格 JIS C 6704及びIEC規格 IEC60758 Ed.4に赤外線吸収係数で定義されております。しかし、現実的な状況として、お客様の中では慣習的にマテリアルQ値を用いる例が多くあり、α値とマテリアルQ値の正確な換算式が必要とされていました。現状測定技術の問題点として、
 ①高精度なα値測定手法が求められること
 ②用いる測定波数に関わらず、安定したQ値が求められる式であること
が、必須で、その為の測定精度の向上が重要でした。この度、東北大学の櫛引淳一教授のご指導により、飛躍的な測定精度の向上と上記換算式の精査が実現いたしました。
日本水晶デバイス工業会ではお客様の利便性を考慮し、この換算式を基準式として推奨させて頂くことにしました。是非ご活用下さい。

概要

人工水晶に赤外線を照射すると特定の波長で赤外線吸収が観測されます。図1に赤外線吸収波形を示します。この吸収は主に人工水晶に含まれるOH基によるものであることがわかっております。この吸収波形から赤外線吸収を定量化したものを吸収係数α値と呼び、式(1)にように定義しています。

図1 人工水晶の赤外線吸収スペクトル
図1 人工水晶の赤外線吸収スペクトル

式(1)
式(1)
ここに、
T1:基準波数(3800又は3979)の透過率(cm-1)
T2:基準波数(3500,3585又は3410)の透過率(cm-1)
  但し、3585はピーク値を用いる
 t :測定試料の厚さ(cm)

α値の測定には3波数が用いられ、使用する波数及び用いる換算式は各社各様です。そこで、波数が異なっても公平に人工水晶評価ができるよう、表1のように人工水晶グレードと各波長におけるα値の基準値をまとめ、測定波長の違いを補完して来ました。


等級 各等級のα値の最大値 1987年
以前のQ値
(単位:106)
α3500 α3585 α3410
Aa 0.026 0.015 0.075 3.8
A 0.033 0.024 0.082 3.0
B 0.045 0.050 0.100 2.4
C 0.060 0.069 0.114 1.8
D 0.080 0.100 0.145 1.4
E 0.120 0.160 0.190 1.0
(JIS規格:JIS C 6704、IEC規格:IEC60758 Ed.4より)

表1中には、参考値として人工水晶のQ値も示されていますが、このQ値はマテリアルQと呼ばれ,人工水晶中を伝播する弾性波の伝播した波を損失分で割ったものになります。損失が零であればQ値は無限大となり、Q値が高い人工水晶ほど低損失の振動子になると云われて来ました。
α値の大きい人工水晶で振動子を作成するとQ値の低い振動子ができることが、数多くの文献(*)により報告されており、α値とQ値の換算式も提案されてきましたが、大きなばらつきがあり統一した換算式を得るまでには、至りませんでした。
(*) 文献[1] ~ [5]


お客様がQ値を知るためには、都度換算表を用いなければならず、又、波数の違いを考慮する煩雑さがありました。そのため人工水晶のグレードをα値ではなくQ値で表示してほしいという要望が高いのが実状でした。
ここで、先に述べた換算式のばらつきについて、図2に波数3585cm-1の例を示しましたが、従来の赤外線吸収測定は測定精度の限界もあり、換算線は大きくばらついております。しかも、Q値の高い高品質の人工水晶でばらつきが大きくなっています。近年、高品質の人工水晶が求められる状況で、高品質人工水晶の評価は重要になっています。

各社のα値とQ値の換算式のばらつき(波数3585 cm-1の場合)
各社のα値とQ値の換算式のばらつき(波数3585 cm-1の場合)

精度の向上と換算式の精査

今回、東北大学の櫛引淳一教授のご指導により、赤外線吸収係数の測定精度を±0.1%(従来法の約10倍)に上げる測定法を確立いたしました。又、異なる波数を用いて測定しても、この換算式を用いると同じQ値が得られることが確認されました。波数 3585cm-1と3500cm-1について精査されたα値とQ値の換算式を示したものが、図3です。

106/Q3585 = -1.010α35852 + 5.252α3585 + 0.189
106/Q3500 = -11.01α35002 + 9.448α3500 + 0.026
図3 各波数のα値とQ値の推奨換算式
図3 各波数のα値とQ値の推奨換算式

今回、換算式精査にあたり、装置メーカーの皆様に測定への御協力及びご助言を頂きました。改めて心から感謝申し上げます。

(日本水晶デバイス工業会 材料委員会)

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参考文献

[1]
B. Sawyer, SAWYER (BALDWIN) CRYSTALS INC GATES MILLS OH. : “Recalibration of Capability Indications from Infrared Measurements on Cultured Quartz" Defense Technical Information Center, (1983).
[2]
D. M. Dodd and D. B. Fraser: “Infra-red studies of the variation of H-bonded OH in synthetic a-Quartz", J. Phys. Chem. Solids, Vol. 26, pp.673-686, (1965).
[3]
B. Sawyer: “Q capability indications from infrared absorption measurements for Na2CO3 process cultured Quartz," IEEE Trans. on Sonics and Ultrasonics, Vol. SU-19, No.1, pp.41 -44, (1972).
[4]
N. C. Lias, E. E. Grudenski, E. D. Kolb and R. A. Laudise: “The growth of high acoustic Q Quartz at high growth rates," J. Crystal Growth, Vol. 18, pp. 1-6, (1973).
[5]
Toyo Technical Paper: “Evaluation of synthetic Quartz by infra-red absorption," No. 77-08, (1977).